春。桜の蕾がほころび始め、気温も暖かくなり始めた頃。長かった受験戦争も終息を迎え、梨木星羅(なしきせいら)は今日、第一志望の大学の入学式へと参列していた。膨大な眠気という爆弾を抱えながら。
(……長い。長すぎる。学長の話、長すぎる。頭沸いてんのか。気持ちよさそうに長話しやがって。周りほとんど聞いてねえのがわかんないのかよこのじじい、椅子に座ってるせいで三分の一が船漕いでるじゃんかよ気付け! 頼むから!)
長々と、気持ちよさそうに話をしている学長に心の中で盛大に毒づく。そして気の済むまで罵倒したのちに自身も眠気を持て余し、ふわあ……。とあくびをした。すると隣から視線を感じたので、そちらを見遣る。視線の主と目が合った。あくびをした直後だったため、おそらく目が座っていたのだろう。視線の主である女の子がふふっ、と笑った。星羅は見られた、笑われた。という恥ずかしさを表に出すまいと、ふふっ、とごまかして笑い返した。そして、話しかけてみた。
「退屈だよね、いつ終わるんだろ」
そう小声で言うと、その子は少し考えてから
「そうですね、そろそろですかね?」
というのだった。
あれから割とすぐに学長の話も終わり、退屈な入学式は何とか無事に幕を下ろし、星羅の大学生活が幕を開けた。周りが席を立ちはじめ、先ほどまで静まり返っていた会場は、学生の声で埋め尽くされた。隣の子も席を立とうとしたので、星羅は思わず声をかけた。
「ねぇねぇ、私、梨木星羅って言うんだけど、この後時間ある?」
そう尋ねると、目の前の女の子は少し考えるようにして口を開いた。
「私は神無月朔良。えっとこの後は……」
そうして次の言葉を言いかけた時。
「朔良!」
一人の女子生徒がこちらに、正確に言えば先ほど知り合ったばかりの朔良のもとにやってきた。その子は長めの髪をふんわりと下ろし、程よくメイクをしていた。小柄な体格とその恰好が絶妙にマッチしており、女の星羅でも守ってあげたいと思ってしまうような子だった。そんな風に考えながら朔良とその女の子を観察していると、
「朔良、探したよ。もぅ長いよ学長の話。もう少しで意識落ちそうになった。あれ、そちらの方は?」
と、星羅に視線を寄越した。尋ねられたため、星羅は応える。
「初めまして。私は梨木星羅。偶然、同じ学部の神無月さんの隣の席になって話してた。先月に地方から出てきたばかりで、この辺に知ってる人とかいないから、仲良くしてくれたらうれしいな」
そう言って自身が最近越してきたことを伝えると、朔良の友達であろう女の子はにこりと笑った。
「そうなの? 私は秋風陽子。朔良とは中高からの友人よ。よろしくね」
星羅は陽子と少し話しただけだったが、とても話しやすいと思った。朔良のことも、少し口が重いけど優しい子であることがわかったし、これからも仲良くしてほしいと、心から思ったのだった。
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