このパンが焼けるまで

 私はパンが好きだ。どれくらい好きかと言うと、パンの何が好きかを語りだすと止まらなくなるくらいには好きだ。好きなところをあえて挙げていくとすると、まず、パンはおいしいし、意外と作るのも簡単であるところ。次にパンの種類はびっくりするくらいあり、とても奥が深いところ。そして、とても可愛いところ。ざっくり言えばこの三つになるのだが、おそらく三つ目の可愛いところ。と言う私の発言に、頭に三つくらいのはてなを浮かべた人は少なくないだろうと思う。それでもパンは可愛いのだ。可愛くて、可愛くて、仕方がない。もちろん、出来上がりの色味もフォルムも可愛い。でも作っている時のパンの生地も可愛い。ふわふわふっくら、もちもちぺたぺた。これは作ったことのある人しか感じたことのない、一種の愛情である、とすら思う。わが子の成長を慈しむように、生地の発酵が、微笑ましいのだ。パンはどこまで行っても可愛い。これはゆるぎない事実なのだ。

◇◇◇

 眠れない時や鬱々とした気分の時、私はパンを焼く。もちろん、気分がいい時にも焼くが、気分がいい時はパンよりもケーキを作ることの方が多い。特に理由はないのだが。

 今日も眠れない日だった。パンを焼こうと思ったのは、翌日友達と会う約束があるからだ。焼き過ぎてもあげる相手がいることで、多少強気の行動ができる。

 何パンにしようか。

 冷蔵庫を開け、中を確認する。ベーコン、玉ねぎ、じゃがいも、卵、バター。戸棚の中も確認する。チョコチップ、くるみ、アーモンドダイス、粒ジャム、キャラメルクランチ、米粉、薄力粉、強力粉、甜菜糖、グラニュー糖。なんでも作れそうな気がする。もちろん、気のせいだけれど。明日会う友達の好みを思い出す。確か、甘いものはそんなに好きじゃなかったはず。柔らかいリッチ生地で、ジャーマンポテトを包んで、バターをのせて焼いたらおいしそうだ。バターはアンチョビガーリックバターにしよう。

 そう決めたので、私は材料を準備していく。強力粉、砂糖、ドライイースト、塩、バター、牛乳、卵。卵が入るのと、水ではなく牛乳を使うことから、ベタつくことが予想されるので、牛乳はほんの少し少なめにして作ることにする。パンを捏ね始める前に、レンジでジャガイモを柔らかくしておくことも忘れない。強力粉を計量し、二つのボウルに大体半分になるように分ける。そうしたら、大きいボウルの方に砂糖とドライイーストを隣り合わせに入れる。そして、卵ポケットをその向かいに作り、そこに溶いた卵を流し入れる。小さいボウルの方には、塩とバターを入れる。レンジで人肌よりもほんの少し熱いくらいの温度に温めた牛乳を、大きなボウルの方にイースト目掛けて一気に入れる。最初は粉がこぼれないようにゆっくりと混ぜ、粉っぽさがなくなってきたら、高速で一分ほどぐるぐると混ぜてグルテンの形成や、発酵を促す。混ぜ終わったら、小さいボウルの方の粉類を全て大きい方のボウルに入れ、更に粉が飛ばないよう気をつけながら混ぜていく。まとまりが出てきたところで、私は生地を台の上に移す。そして捏ね始める。


ぴょんのエッセイ第2弾。「このパンが焼けるまで」に収録。比較的に短めのエッセイ。

表紙が結構お気に入り。

@幸福飯テロリズム

ぴょんのかつどうみていって?

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