我が侭淑女

―1皿目 『行列の出来るラーメン』―

 星莉は今、一人行列に並んでいた。炎天下の中、店の軒先でジリジリと前へ動く背中を追って、進む。三十分並び、やっと券売機に辿り着くと、ラーメン替え玉セットと、ゆで卵の券を購入し、店員さんの案内を待った。店員さんの案内があり、席へと進む。左右に仕切りがある味集中スペースにて、星莉はアンケート用紙に似た紙にラーメンの味付けを記入していく。

「今日は……、濃い味でこってり、ニンニクは二倍。ネギは両方入れてもらって、チャーシュー有り。秘伝のタレは二分の一にしてもらおう……。麺の硬さは、最初が超かたで、替え玉はかために決定!」

サラサラと書き進め、終わるとチャイムを押す。チャララーララ チャラララララーと、チャルメラの音がして、直ぐに店員さんがやってきて用紙を受け取った。食券を確認し、替え玉用のプレートとゆで卵をテーブルに置くと、横向きにお辞儀をして簾を掛けて店の奥へと引っ込んで行った。

 注文したラーメンが来るまでの間にゆで卵を食べる。ゆで卵は味覚をリセットする効果があるらしいので、先に食べておくことでよりおいしくラーメンを食べられる。あと、ここのラーメン屋さんのゆで卵はほんのり塩味がついているだけではなく、丁度良い半熟加減で美味しい。味覚をリセット云々という意味合いがなくても、食べたくて頼んでしまう。このお店は、博多ラーメンのお店なだけあり、結構早いタイミングでラーメンが運ばれてきてしまう。そのため、基本的にゆで卵はスピーディーに殻をむき、迅速に食べなければラーメンが来てしまう。ラーメンが来る前に食べ終えないと、ラーメンが伸びてしまうため、ゆで卵はスピードが命。と、マイルールを掲げている。このこだわりのおかげで、ゆで卵の殻むきが早くなり、たまに人と来た時にもあまりの速さに殻むきで引かれることもある。今回もさっさと殻をむき終わり、卵を味わう。食べ終えた頃、ちょうどよいタイミングで『お待たせしました』と、ラーメンが運ばれてきた。博多の豚骨ラーメンのため、麺は細麺。この麺のチョイスはもともと、魚市場で働く人たちが、少しの空いた時間で食べられるよう考えられたものだ。お客様を待たせぬように茹で時間が早い細麺を使用したが、細麺だと大盛にしたときに伸びてしまうことから、替え玉の文化が出来たのだそうだ。このルーツを知ったとき、星莉は思った。それならばこのラーメンは伸びぬうちに食べるのが一番美味いのだと。そして、普段はゆっくりとご飯を食べる派の星莉が、唯一周りから『引くほど食べるの早い』と言われるくらいの早業でこのラーメンを食べるようになったのである。一杯目は仕上げの時間中も麺がスープに使っているため、自分の好みよりもわずかに硬い方が丁度いいと発見した星莉は、かためが好みなので超かたで注文をしている。ずるずると麺をすすり、大体半分くらい食べ終えた頃、替え玉を注文する。そうすると、ちょうどすべての麺を食べ終えた頃に替え玉がやってくるという寸法になっている。替え玉プレートを押しボタンの上にのせると、店内にまたチャルメラの音が響く。店員さんがプレートを回収して店の奥へと引っ込んでいく。そして、星莉が食べ終えた丁度その頃に、替え玉を持ってきてくれるのだった。替え玉は、一杯目と違いスープに浸かっている時間が少ないため、理想の硬さをそのまま注文してある。今回で言うと、かためだ。ここを超かたにしてしまうと、星莉にとっては硬すぎたため、今ではかためを注文することにしている。一杯目とはまた味の変わった二杯目も、難なくペロリいや、ズルリと平らげる。

「ふう、ごちそうさまでした」

 そう言って手を合わせると、席を立ち、お店を後にするのだった。久々に食べたかったラーメンを食べることが出来た星莉は、とても満足げな顔をして、腹ごなしのショッピングへと向かう。ニンニクの香りを仄かに体へと纏ったまま……。

 この話は、久珠井 星莉 (二十五歳)の様々な食べ物へのこだわりや情熱をまとめた、淑女シリーズのスピンオフである。


淑女シリーズ完全版。食べ頃淑女と愛妻淑女も同時掲載しております。

表紙は大好きなフォロワー様の藤滝莉多様(@RitaFuzitaki)にお願いいたしました。あとがきには莉多さんのお言葉も記載しておりますので興味のある方はぜひに。

@幸福飯テロリズム

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