―プロローグ―
久珠井 星莉(くずい せり) 25歳は目の前の光景に瞳をキラキラさせていた。
テーブルに並んだ星莉の大好物の数々。
さあ食べてくださいと言わんばかりに湯気をあげる小籠包に海老シウマイ。
ちゅるちゅる、もちもちなおうどん。
カラッと揚げてある天ぷらにタルタルソースをたっっぷり添えたエビフライ。
ツヤツヤのザッハトルテに真っ白なドレスに真っ赤な飾りを付けたショートケーキ。
カリカリもっちりのチヂミに、ふわっふわのパンケーキ等々…
「うわぁ……夢見たい…いただきまーーーす!!」
じゅるりと涎を啜り、小籠包から頂こうと手を伸ばす─────────
『…………こっこっこっ、コケーーー!唐揚げサイコーレモンが相棒コケッコー!!!』
バンッッ!!!と音のするそれを引っぱたく星莉。
何を隠そう、これは目覚まし時計の音である。血迷ったのは製作者なのか、声を吹き込んだ人なのか…とにかくカモネギより酷い、鶏の自虐ネタが目覚まし音なのだ。大変目覚めの悪そうな目覚まし時計である。
「んん、ふぅ…ふふ、夢見たぁーい。って、夢かよ畜生!!!!!!!」
起きがけの第一声がこれである。
今日も平和だ。
―1食目 ケーキ―
会社の近くに新しいケーキ屋さんが出来たと聞いて、休日に足を運んだ星莉。イートインも出来るカフェ一体型のケーキ屋さんで、ケーキを食べて帰ることにする。
「すみません、ショートケーキ1つと、ミルフィーユ1つ、イートインでお願いします。」
「かしこまりました。お好きな空いているお席へお座りください。ドリンクはお席でお伺い致しますね。」
手早くケーキを注文し、可愛い店員さんに促され、席へと向かい座る。
そもそもケーキ屋さんはケーキ自体も煌びやかで可愛くて、お姫様のような飾り付けがされたそれ達は、星莉にとって大変な目の保養なのだ。
「ドリンクはいかがなさいますか?」
お冷を持って来てくれた店員さんに言われ、星莉はドリンクを注文をする。
「ホットのダージリンティーで。」
ダージリンは香りにクセがなく、ケーキとの相性が抜群だ。…と、星莉は思っている。
「お待たせ致しました。」
わくわくと胸を弾ませているところに、ケーキとドリンクが運ばれて来た。
「ふわぁあ…!!頂きます。」
やって来たケーキに興奮しつつも、パンッと、手を合わせケーキを食べ始める。
「はぁ、ショートケーキのスポンジふわふわしっとり…クリームは何パーセントのやつ合わせてるのかな、こってりし過ぎず甘過ぎず…絶妙。苺は国産だよね、仄かな酸味がいいバランス…美味しい…。」
一応言っておくが、星莉は今日一人で来ている。つまりこれは独り言である。周りの白い目も気にせず、さらに続ける。
「ミルフィーユ…カスタードと苺、そしてパイのバランスが絶妙過ぎる…このクリーム、どんな配分なんだろう…?はうう、フォークが止まらない[D:12316]!」
もう変質者レベルでケーキの感想を喋りながら、大変美味しそうに(いや、実際美味しいのだが。)平らげる。頬に手を当て美味しいポーズも完璧であるし、幸せオーラ全開である(安いのか高いのか分からない幸せだ。)これはもはやおかわりする勢いである。
「…別のケーキ、買って帰ろう。」
おめでとう!おかわり確定!!
「ふぉお!!モンブランもシフォンケーキも美味しすぎるぅー!!」
勿論、その日の夜に買ってきたケーキ2個を平らげたという事は言わずもがなである。
この話は、久珠井 星莉(25)がひたすら食べ歩く、イートフルストーリーである。
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